先日、ブラジルの金銭感覚についての記事を書きました。
内容を要約すると、ブラジル人の金銭感覚は80年代後半~90年代前半におこったハイパーインフレの影響を多大に受けており、
・支払いは分割に
・貯金よりも消費もしくは投資
・収入は出来るだけ早くもらう
・支払いはできるだけ遅く払う
といった傾向があるというものです。
※詳細は以下をご覧ください。今回の記事は、以下の記事を読むと理解しやすくなると思います。
この記事の数字の元になったのは、ブラジルの労組間社会経済調査・統計所(Dieese)が毎月発表する法令最低賃金と必要最低限の生活費のレポートです。
法令最低賃金については、定義が明確なので特に疑問もなかったのですが、気になったのが「必要最低限の生活費」というところ。
Dieeseによると、「必要最低限の生活費」とは「夫婦2人、子供2人の4人家族の生活費を満たすために最低限必要な金額(=ブラジル憲法が定める、住居、食料、教育、医療、余暇、被服、衛生、移動、社会保障の各費用)」ということだそうです。
正直、定義があいまいで、具体的にどう計算されているのか、はたしてその金額で本当に「必要最低限の生活」がおくれるのか、ちょっと気になりました。
というわけで、今回はブラジルの必要最低限の生活費をもとに、ブラジルでいう「必要最低限の生活」とはどんなものなのか考えてみました。
必要最低限の生活ってなんだろう?
必要最低限の生活費の根拠
元になるのは「基本的な食料品群」の値段
まず、必要最低限の生活費を計算する大元となっているのが、「Cesta Básica de Alimentos(基本的な食料品群)」というというもの。
これは、ブラジル人の食生活をもとに、13個の食品をピックアップして、夫婦2人・子供2人の4人家族が1ヶ月で消費する食料の量を計算したものです。
※赤い四角が国全体の数字です。野菜全般をトマトで置き換えたり、フルーツ全般をバナナで置き換えたり、結構ざっくりしています(笑)子供も大人と同じ消費量として計算されています。
Dieeseは、この13個の食品の値段を調査し、上記の消費量をかけ、1ヶ月の食料品費をだしています。
「基本的な食料品群」の値段から、生活費の値段を計算
この「基本的な食料品群」の費用を、必要最低限の生活費の35.71%として計算したのが「必要最低限の生活費」としています。
※この35.71%という数字は、1994・95年にDieeseがサンパウロ州で低所得者を対象にして行った、家計に占める食料品の割合を元にしています。
参考元1・ http://www.portaldefinancas.com/arq_cestas/metodologia.htm
必要最低限の生活費で本当に生活できるのか?
生活費を項目ごとに計算する
今年2019年の必要最低限の生活費/月平均(10月まで)は4126.63レアル(約123,800円、1レアル30円で計算)です。
参考元2・DIEESE - análise cesta básica - Salário mínimo nominal e necessário - novembro/2019
これをもとに計算していきたいと思います。
食料品費35.71%=約1473.62レアル(約44208.6円)
住居費26.5%=約1093.56レアル(約32806.8円)
交通費10.25%=約422.98レアル(約12689.4円)
医療費5%=約206.33レアル(約6189.9円)
被服費7.5%=約309.5レアル(約9285円)
教育費3.75%=約154.75レアル(約4642.5円)
衛生用品費5.25%=約216.65レアル(約6499.5円)
余暇1.625%=約67.06レアル(約2011.8円)
交際費3.625%=約149.59レアル(約4487.7円)
その他・個人的支出0.79%=約32.6レアル(約978円)
※パーセンテージはサンパウロで行われた、低所得者向けの調査結果を参考におおまかな数字をだしています。参考元3・DIEESE - Departamento Intersindical de Estatística e Estudos Socioeconômicos
上記の金額で生活は可能か?
結論から言うと十分可能です。
というか、食料品に関しては、上記の半分くらいで暮らしている人もたくさんいそうな気がします。
医療費や教育費は、公立のものを利用すれば無料なので、上記のような低い値段になります。
低所得者向けの調査結果をもとにしたパーセンテージなので、交際費や余暇に使うお金はとても少ないですね。
ブラジルでの「必要最低限の生活」とは
十分に食べることができるし、雨風を防ぐ家もあるけれど、それ以外のことは生きていく上でギリギリのライン
といったところでしょうか。
日本が「健康で文化的な最低限度の生活」を保障しているのとは、全く違いますね。
大家族が多い理由
必要最低限の生活費を稼ぐのは大変
ブラジル政府が設定する「必要最低限の生活費」で、(シンプルですが)十分生活することは可能です。
ただし、それを稼ぐのは実は簡単ではありません。
上記参考元2のリンクから確認できるのですが、2019年の最低賃金は998レアル(約 29940円)です。必要最低限の生活費を稼ぐのに、約4人分の最低賃金が必要になります。
「必要最低限の生活費」では、家族構成が大人2人子供2人という前提ですが、大人2人で4126.63レアル稼ぐのは多くのブラジル人にとってかなり大変な事です。
寄り添いあわないと生きていけない
最低賃金と、生活費のバランスがよくないブラジル。
だから低所得者の家族は、親族同士が一緒に住んだりして、助け合って生きています。そうしないと、生活できないのです。
また、子供も高校に入るころには、家計を助けに働きにでる子がたくさんいます。
ブラジルに大家族が多いのには、こんな理由もあります。
まとめ
日本も増税や非正規社員の増加等で生活が大変とはいいますが、ブラジルは本当に生活が苦しい人が多いです。
ただ、日本とブラジルで全く違うのが、最低限の生活を送っていてもそんなに悲壮感はないこと。
貧しいなら貧しいなりに、親族同士で寄り添って生きてますから孤独感はありませんし、誰かしら助けてくれる人もいます。
日本は「健康で文化的な最低限度の生活」を保障していますが、実際はどうでしょうか?
最近の日本の状況を見るにつけ(ブラジルほどではありませんが)、結構カツカツで暮らしている人も多いのかなと思います。「文化的」な生活をおくれていない人も結構多い気がしています。生活保障はありますが、「健康で文化的な最低限度の生活」をおくれる金額とはとても思えません。
そんな状況になったとき、日本では助けを求めることができるでしょうか?誰かと寄り添って生きていくことができるでしょうか?
ブラジルの方が貧しいのは間違いないですが、 実際に「最低限度の生活」をおくることになったとき、実はつらいのは日本ではないのかなーと思っています。
ブラジルのような経済状況になったほうがいいとは、まっっっっっっっっったく思いませんが、貧しい人や社会的に弱い立場に居る人に、もうちょっと手を差し伸べられる社会であったらきっともっと暮らしやすくなるのでは、と個人的に思っています。